10月5日から、イスラーム暦の断食月ラマダン)に入っています。
この間、ムスリムの人々は、日中の飲食をおこないません。人にもよりますが、唾を飲み込むことも控えます。健康に問題がない人や、職務上、断食が差し障りとならない人だけが、断食をおこないます。妊娠・授乳中の女性、病気の人、小さい子ども、寝たきりの老人、飛行機のパイロットなど人の安全に関わる仕事に従事している人などは、断食をおこないません。また生理中の女性も、その期間は通常の飲食をおこない、後日、別の期間に断食をおこないます。このことを、「bayar 支払いをする」と言ったりします。明確な事情がある場合には、かならずしも断食に従わなければならないというわけではない、ということになります。
さてたまたま調査中に、断食月を迎えた場合、調査者はどうするのでしょうか。多くの場合、ムスリムの人々は他の宗教を信仰するものが断食をすることはないのだから、飲食は普段どおりにしなさい、と言ってくれると思います。ただし、そうは言われても、実際、断食中の人々の前で堂々と飲食ができるかというと、これはたいへんなことであります。こそこそと自分の部屋などであわてて水を飲んだりすることもありますし、人によっては日中の飲食をまったくおこなわず、ムスリムの人々とおなじ行動様式にしたがう人もいるでしょう。なんといっても、一日中、まったくなにも食べないというわけではありません。
断食月の間は、日没から日の出までの間のみ、飲食を楽しむことができます。夕方、モスクからの案内があると、人々はまずあわてず騒がず、身を浄めて礼拝をおこない、落ち着いてゆっくりとグラス一杯の水やお茶を飲み干します。ついで、冷たいお菓子や温かい豆のおかゆなどを食べます。
通常の夕食時間に食事を摂ります。断食中は、テレビの番組なども特別編成となり、家族団らんの時間を過ごします。午後8時ごろになると、モスクへ行って、みなで断食中の特別な礼拝をおこないます。これをタラウェといいます。1時間ほどにわたって、礼拝に続いてお説教を聞いたりします。
帰宅してほぼ通常の時間に就寝しますが、日の出前に食事を済ませてしまわなければなりません。夜中の2時半あるいは3時頃になると、集落の中を太鼓や鉦を鳴らしながら、「サフール!サフール!」と叫びながら巡回する人の声が聞こえてきます。これは、「さあ、起きて、夜明け前に食事をしましょう」という案内なのです。人々はむっくりと起きあがり、たいていは夕食の残りを温め直したものを食べます。不規則な時間にたっぷりを食事を摂るために、ほとんどの人々はやせていくのですが、まれに太ってしまう人もいます。
日中の飲食ができないため、いらいらとする場合もあるのではと思いますが、まったくそういうことはありません。断食月こそ、穏やかな気持ちで禁欲的に過ごすべきなのです。飲食ができないため、この期間において、少なくとも南スラウェシ州内では、結婚式や割礼式はまったくおこなわれません。
いろいろと不便が多そうだと思われるかも知れませんが、潔斎して過ごす期間があるのもよいなと思ったりすることもあります。