celebes2005-05-03

第8回 「焼きそばと流星花園
楠田 [平成13年度入学]

2002年1月、論文執筆の予備調査としてインドネシアのマカッサルを初めて訪れたとき、私の髪は真っ茶色で、しかもきのこ雲のような頭が爆発したようなパーマがかかっていました。同じ年の12月、本格調査の直前、これでは研究者らしかるまいと決めつけた私は色を黒に戻し、パーマもやめてサラサラのストレートにし、マカッサルへと再び乗り込んだのでした。
ときにかの地では台湾製のテレビドラマ『メトロガーデン』(原題『流星花園』、原作は神尾葉子の漫画『花より男子』。現在日本でもBS日テレで放映中)が空前のヒットを記録し、あまりの人気に主演の男性4人は劇中演じているグループ名そのままに『F4』としてアイドルデビューを果たし、これまた絶大な支持を集めていたのでした。その後、続編にあたる『メトロガーデンⅡ』も大好評のうちに幕を閉じ、彼らの人気はとどまることを知りません。エース格はトミンセ (役名)ことジェリー・イェン、次いでワチョレイことヴィック・チョウといったところ。なかでもジェリー・イェンの人気たるや凄まじく、日本における全盛期のキムタクをも凌いでいたでしょう。
で、この4人は揃って似たような髪型をしているのですが、あら偶然、私がインドネシアに行く直前にイメチェンした髪型そっくりそのままなのです。しかも顔の具合は全然違っても髪型が同じならマカッサルの人々にとって日本人も台湾人も見分けがつかないようで、道行く人には「ヘイ、トミンセ!」「ヘイ、ワチョレイ!」と気軽に声を掛けられ、何かとイベントに呼ばれ、うら若きオナゴたちからはサインや写真をねだられるという予想外の境遇に身を置くこととなったのでした。これはたまりません。おかげであの暑いなか、私はええかげん鬱陶しくなってきた髪をバッサリ切る決心が結局つかずにいたのです。ちなみに同じころ TBSの『魔女の条件』も放送されていたのですが、こちらの方はいまいちパッとせず。よって調子に乗った私の「どうせならトミンセじゃなくタッキーって呼んで!」という願いも全く受け入れられることはありませんでした。それでも前回滞在時、茶髪にチリチリパーマで「ミゴレン(焼きそば)!」と呼ばれ、笑われキャラをまっとうしていた私は、今回図らずもマカッサルの似非トミンセへと格上げされ、思うように調査が進まぬなか、おれも成長してるやないかとこのちっぽけな慰みと優越感を胸に、何とか日々を送っていたのでした。

*1:楠田健太:京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科在学中。『21世紀COEプログラム 世界を先導する総合的地域研究拠点の形成』によるフィールド・ステーション・プログラム(大学院生の臨地研究支援)により、2004年12〜2005年3月まで、マカッサルに派遣されていました。