昨年の11月から今年の1月下旬まで、マカッサルに滞在していた間、楽しみにしていたテレビドラマがありました。
TPIで放送されていた「Bule masuk kampung(外国人が村に来た:意訳しています)」です。これは、アメリカ人の人類学徒マイケルが、調査のためにジャワ島はスンダ地方の村にやってくる話。そこで、ネン・アニサ*1と恋に落ちるのです。マイケルはすでにイスラームに改宗しており、ふたりの結婚を妨害するのは、アニサ嬢の父親とその取り巻き、アニサ嬢に横恋慕している彼女の指導教官である大学の先生となります。このふたりが実に稚拙な策略をめぐらすのです。ドラマはコメディで、主題歌がとてもインパクトのある楽しいものでした。よくもまあ、これだけ次から次へと、ふたりの恋の妨害が入るものだと思うのですが、これが実によくできたドラマでした。
下宿先の家族全員と私で観ていたのですが、家族たちはテレビの中の状況と、自分たちが経験している状況がとても似ていることが、おかしくて仕方がないらしく、いつも興奮して笑い声をあげていました。田舎の村に外国人がやってくることは、その事態を受け入れる側にとって、それだけで「非日常的」な出来事なのだと改めて思ったものです。私が村にやって来たときの状況と、アメリカ人マイケルが村の中にとけ込む状況とが、シンクロしていたのでしょう。家族はそれが楽しくて仕方がなかったみたいでした。聞き取る側は、できるだけ普通にしてよ…などとえらそうに思ったりしてしまうわけですが、生まれて初めて見る外国人をもっとよく観察したい…。そんな風に思ったり思われたりするのは、当然のことなのでしょう。一方、毎日の暮らしの中では、外国人だからといって、特別扱いはせずに、あくまでも家族が一人増えたという距離感で接してくれていた家族ですが、テレビを観ながら「あのときはこうだったよ」「おまえが帰る度に、もうわたしたちのことは忘れるかもしれないと、泣いたのだよ」などと言うのでした。
Pulang kampungとは、帰省するという意味のインドネシア語です。調査に行くというよりは、村に帰るのだという気持ちをずっと持ち続けていたいと思います。

*1:Nengはスンダ語で若い女性につける呼称。