南スラウェシ州では、儀礼の際にかならず準備されるお菓子があります。

オンバッ・オンバッ
モチ米の粉を水で練って団子にしたものをウズラの卵ふたつ分くらいの大きさにします。色と香り付けには、パンダン(Pandanus tectorius、タコノキ科タコノキ属アダン)の葉を石臼ですり潰したものを絞って取り出した水分を混ぜます。とてもよい香りがつきます。その中に、ココナツの果肉をおろし器でおろしたものとヤシ砂糖のかたまりをカツオ節のように削ったものを合わせたものを入れて、丸めます。このとき、小さくカットしたヤシ砂糖の固まりも入れます。これを沸騰したお湯に入れます。できあったら、お鍋の底から浮かび上がってきます。これをすくい上げて、しっかり水切りをしたら、おろしココナツを全体にまぶしてできあがり。どんなどん底な状況に陥っても、かならずいつか再浮上するように、という意味が込められています。口の中にいれて噛むと、ヤシ砂糖の固まりが歯ごたえを残しながらじわりと溶けるので、おいしさも倍増します。

クエ・ラピス
ラピスとは「層」のことです。バームクーヘンのように、一枚ずつ、剥がして食べることができます。
ウルチ米の粉に新鮮なココナツミルクを混ぜます。そこに上白糖をまぜます。大きなお鍋にお湯を沸かし、四角いバットを浮かせます。少しずつ、米粉ココナツミルクを合わせた溶液を流し込みます。最初の層がある程度に固まったら、第二回目を投入。これをバットの縁に達するまで繰り返します。
できあがったクエ・ラピスは、上品なミルク色をしています。日本のういろうにそっくりです。一枚ずつ、剥がして食べるのがおいしいのですが、あまりお行儀がよろしくないとのこと。
人生は、辛いことも楽しいことも、すべて順番に重なっているのだから、悪いことが起きても絶望せずに、どんどん、新しいページをめくっていくように、という意味が込められています。

そして、なんといってもチュチュール・バヤオ。黄色と緑があります。チュチュールとは「儀礼用のお供え」、バヤオとは「卵」を表すマカッサル語です。
小麦粉にお砂糖をたっぷりと混ぜ合わせ、卵、キャンドルナッツ(インドネシア語ではクミリ:Aleurites moluccanaトウダイグサ科アブラギリ属ククイノキ)をすり潰したものを混ぜます。クミリは、コクのある味を付けるためです。これを、アルミ製の小さなプリン型のようなものに入れて蒸します。
卵は卵黄を多めに使うので、色は黄色になります。できあがったまだ暑いもの(蒸しパン状のもの)を、上白糖を水に溶いて温めたものに一昼夜、浸しておきます。これが黄色のもの。
緑のものは、黄色を作るときに余った卵白を使います。これをあまりしっかりと泡立てず、少量の米粉とお砂糖、パンダンの絞り汁を合わせて正方形のバットに流し込み、蒸します。長方形にカットしてできあがり。

バロンコ
バナナ・プディングです。
よく熟した生食用バナナ*1を適度な適度な暑さの輪切りにいしたものを、さらに軽くすり潰します。そこに、上白糖、ココナツミルクを混ぜ合わせ、最後に溶き卵を入れてざくっと混ぜあわせます。それを、若いバナナの葉を30センチ角ほどに四角く切ったものの四隅を合わせて作った容器に流し入れ、最終的には3枚ほどのバナナの葉をカットしたものに成形します。これを蒸し器で蒸します。
できたてのアツアツもおいしいですが、冷やすとたいへん上品なお菓子になります。バナナの葉を成形するときに、最近ではホチキスを使うことが多くなりましたが、ヤシ葉の葉柄を細く割いたものを使います。

どれも極めつけに甘いものばかりですが、十分に長い期間、鮮度を保つための工夫です。
さて、写真の中では、どれがどのお菓子でしょうか?

*1:バナナには生食用と調理用の種類があります。→参照:http://www.geocities.jp/banana_rnj/