ワサビノキ

写真は、ワサビノキ(Moringa oleifera)の果実です。マカッサル語では、ケロロ。2004年12月に、バランロンポ島で撮影されました(写真撮影:浜元聡子)。
ワサビノキは、その根元部分がホースラディッシュの代用として食される、と『有用植物事典』(ISBN:4582910599)では説明されています。しかし、実際に、ワサビノキの根っこを掘り返して、食べている人を見たことがありません。南スラウェシには、他に辛味のあるものがたくさんあるからでしょうか。
ワサビノキの若葉を摘み取って、スープ仕立てにしたものが好んで食べられます。干しタマリンドで酸味をつけたり、ココナツミルクとコショウで味付けしたスープでさっと煮込んだものが好まれます。緑豆を一掴み、合わせて一緒に煮ると、他におかずがなくても十分にお腹が膨れる一品となります。
しかし、ワサビノキといえば、なんといってもその長い果実を調理したスープでしょう。全長30センチ〜50センチほどの果実のサヤの部分の、外側の固い繊維を包丁などでしごきながら取り除きます。7〜10センチくらいの「持ちやすい」長さに切り揃えた果実を、沸騰したお湯に入れ、サヤの部分が明るい黄緑色になるくらいにさっと煮立てます。味付けは、若葉の場合とおなじ。タマリンド仕立てでもココナツミルク仕立ての場合でも、煮くずれしないことがポイントです。深皿に盛りつけて、食卓に出します。
食卓では、各々、自分のお皿に取り分けたサヤを、縦方向に割いたものを右手に持って食べます。下の歯でしごくか、上の歯でしごくかは、好みの問題。サヤの内側の柔らかい果肉部分には、小さな豆(種)が並んでいます。いちいち、スプーンや指でほじくり返すのではなく、豪快に歯でしごいて食べるのが、とても楽しい。
乾季から雨季の初期にかけて、断続的に開花し結実します。島嶼部や汽水帯地域の比較的、土壌が貧困な場所でも、しっかりと育ちます。パサール(市場)では、ほとんど売られることのない野菜類ですが、村落部での存在価値はひじょうに高いのです。島の人々は、山の人びとのところへ遊びに行くときには、かならず束ねたワサビノキの実をぶら下げていきます。曰く、ワサビノキは「島の野菜であり、山では育たない」とのこと。真偽はともかく、ココヤシが一本もない島でもワサビノキだけはある場合もあります。過酷な環境に強い植物であることが、漁村や農村の人にとくに好まれる所以でしょうか。果実も葉も、高血圧や心臓病によいとされています。