さて、ほんの2ヶ月ほど留守をしただけですが、マカッサルの街ではいくつかの変化ありました。新しいホテルが次々と建設中であること、スラウェシ科研の定宿ウィサタ・インの斜向かいにダンキン・ドーナツができたこと、などです*1ダンキン・ドーナツが街中に登場し、それらがごくごくふつうにマカッサル市民によって利用されているということは、少なくともわたしにとっては、ひじょうに感慨深いものでした。というのは、ダンキン・ドーナツは、ジャカルタへ出張した帰りに買うべきもっともポピュラーな、高級おみやげだったのです。

1996年に、初めて調査のために滞在したマカッサルでは、今のようにカフェと名付けられるものは、海辺に面したマカッサル・ゴールデン・ホテルやパンタイ・ガプラホテルのカフェテリアなど、外国人旅行者を主眼においたものばかりでした。ショッピングセンターといっても、スンガイ・サダン通のマタハリ・プラザがもっともおしゃれでありました。パサール・セントラルは、昔ながらの服地やサロン、ダステルなどを中心に扱うマーケットですが、スリにあったり、大胆にぼられたりと、それなりに危険を伴う場所でもありました。それが2000年前後を境に、大きく商業的な展開期を迎えます。
まずはサヒッド・ホテルの南側にラトゥ・インダ・モール(MARI)がオープンしました。ここに、全スラウェシ島そして東部インドネシア地域では初めてのマクドナルドが登場しました。当初から、子どもの誕生会を開くなど、外国人旅行者以外の利用が観察されました。その後、相次いで、パナクカンマス・モール、GTC(タンジュン・ムルデカのあたり)、MTC(カレボシ広場の北側)などに、ショッピング・モールがオープンします。このあたりから、人々の主要な買い物の「場」が変容してきます。ジャカルタ資本の大型スーパーマーケットHEROがやってきて、チーズやヨーグルト、牛乳などといった外国人御用達の食料が、GELAELスーパーマーケットの専売特許ではなくなりました。少し気の利いた家庭だと、子どもの朝食はミューズリーにフレッシュミルク、というようになったのです。ミネラル水もまとめて安く買うことができるようになりました。と同時に、遠隔地の島嶼部の台所には、ミネラル水をガロンで買って、それを設置するための台が導入され始めました。乳児の粉ミルクを作るため、といった理由でバランロンポ島の人々が導入しはじめたのもこのころでした。紙おむつなども日常的に使われるようになり始めます。MARIには、エクセルソ・カフェもオープンしました。それまではホテルでしか食べられなかったようなクラブハウス・サンドウィッチやケーキが、買い物のついでに食べられるようになったのです!

ラシンラン通とラガリゴ通の交差点のクダイ・コピ(喫茶のためのお店)で、濃いコーヒーを飲むのもおいしいですが、時には気分転換のためにささやかな贅沢をしたいと思うことがあります。そういう場所ができたことは、たいへんうれしいことでありました。しかしながら、現実に自分がそういったカフェやファーストフード店を利用しているかと振り返ってみると、相変わらず、テント掛けのワルン・コピ(道端などにテントの小屋掛けをしたお店)やクダイ・コピなどで、コーヒーを啜りながら、ピサン・ゴレン(バナナ・フライ)を食べることが多いようです。最近は、三度の食事も小屋掛けのワルンで済ませており、マカッサル市全体の近代化と、まったく逆方向のベクトルに向かっています。しかしながら、こういった昔ながらのワルンやクダイの中にも、若者を主要なターゲットに据えたレトロ・カフェのようなものも登場しています。さまざまな方向に商業活動が展開しているという状況こそが、マカッサル市の「現在」を見る指標なのかもしれません。

ところで、なんだかんだといいつつも、やはりバジ・パマイ(ランゴン通)は値段も安く、品揃えもピカイチのスーパーマーケットです。華人経営のお店だからか、近隣のマレーシアから輸入される中華の食材やお菓子なども豊富です。HEROはジャカルタにもありますが、バジ・パマイ(マカッサル語でGood Heart)はマカッサルにしかありません。マカッサルへお立ち寄りの際には、ぜひ覗いてみてください。

*1:Wisata Inn:Jl. Sultan Hasanuddin 36-38, Makassar, tel:0411-324344。一泊あたりの料金はRp.170,000〜。ただし上手に値切ると、Rp.140,000ほどになります。