celebes2005-07-18

かなり小さく写っていますが、写真はタネナシパンノキ(Artocarpus altilis:breadfruit)の木です。パンノキの樹高は平均30〜40メートル。幹の胸高直径は、1.5メートルに達するものもあります。比較的柔らかい材であるため、スプルモンデ諸島地域では、あまり結実しなくなった古い木を利用して、刳り抜き舟を造る材とすることもあります。写真中央部の黄緑色をしたものが、タネナシパンノキの果実です(写真撮影:浜元聡子)。
写真くらいの大きさのものは、まだ完全には熟していませんが、強い風が吹いたりすると、地面に落下します。果実は日本の冬瓜をもう一回りだけ大振りにしたようなサイズ。包丁で外皮を剥き、縦方向に四等分し、それぞれを1センチくらいの厚さにスライスし、薄い塩水に浸けておきます。お湯を沸かし、水気を切ったタネナシパンノキの実を投入します。干しタマリンドで酸味をつけ、塩で味を調えます。あるいは、お好みで、ココナツミルク味にすることも。
果実はほんのりと甘みがあり、サツマイモに似たほくほくとした感触がします。おかずとして調理するので、上記の手順を、bikin sayur(野菜にする)といいます。
熟した果実は、お菓子の材料となります。まずはもっともおいしい食べ方。外皮を丁寧に剥き、二等分した果実を1-1.5センチくらいの厚さに切り分けます。薄い塩水にしばらく浸けたあと、水をよく切って、新しい油で揚げていきます。ちょうどトーストのように外側が軽いキツネ色になったら、鍋から取り出します。外側はぱりぱり、内側はほくほくの、パンノキトーストのできあがりです。ザラメ砂糖をまぶしたり、すり潰したトウガラシとピーナッツを油炒めして作ったサンバル・トゥミスなどを辛み調味料として食べます。パンノキはその名前のとおり、西太平洋や東南アジア島嶼部地域を冒険した西洋人が、パンの代用品としたものです。有毒のタネアリパンノキ(Brosimum alicastrum:breadnut)もありますが、スラウェシ島地域で一般に見られるのは、無毒のタネナシパンノキです。
蔬菜類の栽培がまったくできない土地柄、乾季から雨季のはじめにかけて、いつでも収穫可能な果実が結実するパンノキの利用は、島嶼部地域の食生活には欠かせません。有毒のタネアリパンノキと違い、保存食利用ができないため、その場で即利用する必要がありますが、いつでも新鮮な果実を食用できるだけの収穫があります。
トーストのように食べるほか、熟した実を一旦、お湯で茹で上げたものをすり鉢で丁寧に潰し、卵、マーガリン、上新粉(モチ米あるいはウルチ米の粉)を練り合わせて団子にしたものを、卵黄を溶いたものに潜らせてから油で揚げるお菓子もあります。からりと揚げた団子は、ヤシ砂糖でゆるめに作ったカラメルソースをかけて食べます。
島内に生えているあらゆる果樹の果実は、まだ枝から落ちない場合には、原則的に、その樹木の所有者に所有権があります。それが欲しい場合には、かならず所有者に一言、ことわりを入れるのが決まり。ただし、自然に地面に落下したものについては、発見者に所有権があります。早起きは三文の得といいますが、インドネシアでもまったくそのとおり。ただし、パンノキの実は、まったくの無風状態でも、突然、落下することもあります。夜中にどすん!という音がして目が覚めることもしばしばでした。